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上記曲のイメージ小説。
歌詞の引用が多く、小説というより曲の補助のようなイメージ。
「ごみばこ」の続き。
シバション様からの削除依頼があった場合削除いたします。
気付いたら、隣にレンはいなかった。
歌の練習の時間にも、来なかった。
どんなに待っても、帰って来なかった。
マスターの泣いてる声が、聞こえた。
【 サルベージ 前編 】
どうして、ねぇ。
あたしがいなきゃ何もできないくせに。
どうして、ねぇ。答えてよ。
何も返事がないことへの苛立ち。背中を合わせる相手のいない淋しさ。歌の練習ができなかったなんて八つ当たり。
どうしてどこにもいないの…!あたしの目の届かないところに居るの!
胸のリボンをぎゅっと握り締める。
嫌な予感が後を絶たない。レンがいないだけであたしはこんなに落ち着かない。
もう、レンのせいなんだからね!
あたしはぐるぐると同じ場所を探し続けた。それはこの青空の下。草原が彼方まで広がっているこの場所。
だってあたしたちはこの場所しか知らない。ここ以外に、居場所なんて知らない。
なのに、どこにもいないの。レンはどこにもいない。
一人、草原の丘で立ちつくす。
この草原ではしゃいで走り回っていた時に、レンは言ったよね。
いつか、この草原の果てまで歩いて行ってみようって、そう言ったのはレンだよね?
マスターに内緒でそんなこと計画するなんていけないことだと思ったけど、レンのあんな笑顔見ちゃったら、断れなくて。
あたしも自然に笑ってて、じゃあどっちが早く辿り着けるか競争ね、なんて冗談言ったら、レン慌てふためいちゃって…。
ねぇ、レンはその約束を破るつもり?
そんなこと許さないんだから。
絶対、二人で、行くんだから。
二人じゃなきゃ、イヤなんだから!
何の罪もない青空をあたしは睨んだ。
どこにいるのレン。
早く、早く答えて!
「マスター…リン…はやく、出して、ねぇ」
―――心が捉えた、レンの声。
以心伝心。伝わる言葉は酷く掠れて弱っていた。
『あのこは囚われの身』
白い壁に囲まれた頑丈な檻が見える。
その中で泣きながらうずくまっているレンが見える。
レ ン が 泣 い て る …
残像のような映像があたしの目に映る。
レンの泣いてる姿を見るのは初めてじゃないけど、今までと違う危機感があたしの脳裏を埋める。
レンの心が、上手く聞き取れなくなってる。
ああもう、そんな檻、蹴破ればいいでしょ!
できないの?何甘えてんの!
不可能なんて知らない!
手遅れには、させないから!!
草原の隅っこ。白い箱が見える。
レンを捕らえて返してくれない箱は、あたしが思っていたより大きくあたしたちの間にそびえ立っていた。
高い高い壁が、あたしとレンに境界線を作る。あたしは息を切らしながら走った。
ただレンに近づきたくて。ただレンの無事を確認したくて。大丈夫だよ、って言ってあげたくて。
今すぐ、助けてあげる!
そんな澱んだ空気の中に居たら、体壊しちゃうでしょ!マスターだって、困っちゃうんだから!
だから、早く二人でキレイな空気吸い込もう!この青空の下で、歌を歌おう!
白い箱の壁の数歩前で立ち止まった。
壁越しに、あの時見た、うずくまっているレンが居た。体が透けていて、レンはあたしが居ることに気付いてない。
あたしは箱に詰め寄って、壁を思いっきり何度も叩いた。
こんなに力一杯叩いているのに、白い壁はビクともしない。音だってくぐもった鈍い音しか出ないから、レンは気付いてくれない。
時間だけが進む。時間は待ってくれない。
そこに居るのに、届かない手。
拳が真っ赤になっても、叩き続けた。
「レン!何してんの!気付いてよ、あたしはここに居るよ!」
「ねぇ、レンったら!!早く起きろー!」
いつもの癖で、レンを叩き起こすときの台詞を叫んだ。
すると、レンがこっちを見たような気がした。
だけど、レンの視線はあたしからさらに上を向く。あたしも同じように青空を見上げた。
カチッと音が一回響いた。
あたしとレンの視線の先には、一つの窓。
[ ゴミ箱を空にしますか? ]
その窓に描かれているのは、紛れもなくレンの居る箱。――― ご み ば こ 。
そんな、
イヤだ、
マスター、
消さないで、
レンはまだ居るよ!!!!
白い箱に体当たりをしたり、叩いたり、蹴ったりしても、もう意味を成さなかった。
あたしの目から水滴が落ちる。
「マスター!まだレンがっ…」
「まだレンが居るよ!!消さないで、消さないで!!イヤだよマスター!レン!!」
声はマスターに届かない。
カーソルが、[ はい ]に移動する。
「―――――リン!!」
あたしを呼ぶレンの声が聞こえて。
レンの姿が、ガラクタに埋まって、見えなくなって。
それが、最後だった。
「イヤだ、レン!レン!」
「返事してよ、レンってば!!」
「いやだあぁぁあぁ!!!!」
叫んでも、マスターにもレンにも、届かなかった。
「ひとりに慣れるのはいやだよ…!」
白い壁にすがりついて零した言葉は、青空に溶けて、消えた。